Ruhnau, Herrmann, & Schroger (2011). Finding the right control: The mismatch negativity under investigation, Clinical Neurophisiology, in Press.の話です.大雑把にまとめると,
- MMNはoddballパラダイムの高頻度音(standard)と低頻度音(deviant)との差によって求められる.
- ところが,standardは高頻度なので,neural refractrinessが増大する.結果として,N1振幅が減衰するが,N1潜時とMMN潜時は(特にfrequent MMNにおいては)重複するので,これは正確なMMNにならない.
- そこで,deviant音と同頻度でランダムな周波数を提示すれば(random条件),このときのdeviant音と同じ周波数の音(control)とdeviant音は,refractorinessの程度は等しくなるし物理的にも同一の音なのでばっちり比較できるはずである,というのがこれまでの話
- ところが(2回目),random条件はその周辺の周波数分布がoddballよりも広いので,結果としてrefractorinessは一致しない.しかも,oddballパラダイムでは,"高頻度音がある"というわりと明瞭なルールがあるが,random条件では"繰り返しはない"という抽象的なルールしかない.結果として,random条件はN1が増大しやすい.
- そこで,cascadic条件を設定する.言葉で説明するのは大変なので,見れる人はFig.1を見てください.ようするに,目指す周波数音に向けた上昇-下降系列を作るということ.
- cascadic条件の利点は,直前に提示される音は周波数的にはかなりdeviantに近接しているので,これによる不応性の状態はoddballに近づくであろうということと,明瞭なルールがある(上昇して下降する)こと.
- Fig.3を見れば,deviant N1とcascadic N1だけに有意な差がないことが見て取れる.
ということになりましょうか.
それで,問題はP1なわけです.見れる人はFig.2を見て頂くとして,見た目だけだと,振幅はdeviant > random = standard > cascadicに見えます.では,deviantとcascadicのP1振幅の違いは何によって生じるか?
ちょっと考えた説明はこんな感じです.
- oddballパラダイム(つまりdeviant P1の話)では,standardが繰り返し提示されるので,sensory gatingはstandard周波数に「のみ」かけられる.deviant周波数はほぼgatingされない.
- 一方,cascadicの方では,standard周波数に変動性と規則性があるので,inputされた周波数の周辺ないし/および"次に予想される"周波数にもgatingがなされる.
ところが,この説明はうまくないところがあって,
- だったら,standard P1が最小になるべきではないか?(standard周波数に頑健なgatingがされるから)
- そして,random P1はdeviantと等しくなるべきではないか?(次にどの周波数が入力されるかわからないので,gatingしようがない)
この矛盾を解消するために,次の説明を導入してみます.
- oddballは実はcascadicに比べて,"規則性"がない.なぜならば,cascadicは完全に規則に従った入力があるが,oddballはいつdeviantが来るかわからないから.そうすると,予測(記憶?)に従った入力は強力に抑制しておけば良くて,deviantが来るかも,という一種の確率的な不安定性があるstandaardではstandard音の抑制は多少低下する.
- random条件では,何がくるかがわからないんで,入力周波数を均等に抑制する.
これで行けるでしょうか?まだおかしいところがあるかもしれませんが,じゃあ上記の事項がとりあえず全部成立するとすれば,
P1に関しては,入力された周波数情報とその規則性(言い換えれば,次の入力の確率分布?)に応じたかなり複雑な抑制機構が働いているような気がするんですよね.
そうであれば,N1にしても,たまたま(といっていいのかなあ…)振幅は一致しているけれども,その背景にある不応性を成立させる機構は違うような気がするんですよね.ううーん.気がするだけ.
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