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卒検のための読書.展望(的)記憶(prospective memory)に関する書籍です.岩波科学ライブラリー 133(2007)のご紹介.book-navi戸崎将宏の行政経営百夜百冊にもレビューがあります.あと,認知心理学を語る(1) おもしろ記憶のラボラトリー(amazonリンク)においても,梅田先生が展望記憶について一章を担当しています.こっちのほうは一章でコンパクトにまとまっていますから,先にこちらを読んだ方がいいかも?でも,本書もそんなに難解な部分はありません(もし,心理学実験に予備知識が多少あれば,より読みやすいでしょう.)

以前卒論・修論で展望的記憶研究に取り組んだ方から紹介いただいたもの.展望的記憶はかなり高次の処理過程ですから,卒論で(4年生のこの時期から)取り組みはじめると,いろいろなところに「嵌ってしまう」ようです.(ここでいう「嵌る」は,ロマンシング・サガ2で,テンプテーションの見切りを持っていないまま,七英雄戦直前でセーブをしてしまったときの「嵌る」と同一のニュアンスですが,このニュアンスのほうが伝わりにくい気がします.自己満足だからいいんだ).ですから,「嵌ってしまう」前に,こういう概観ができる本を読んでおいたほうがよい(これは,別に展望的記憶に限ったことではないですね.心に留めておかなくては),ということでお借りしたのですが,卒論生は既に読んでいた(偉い!)とのことで,せっかくだから渡辺が読んでみることにしました.さらっと読めて良い感じですが,巻末にリファレンスがないことは不満です.長いので,続きに格納しました.



以下,個人的に重要だと思った部分のまとめと,私見.書籍の内容と,渡辺の私見は入り混じっているので,引用しようと思う場合はちゃんと買って読みましょうね.

「展望記憶」は,「これからやろうとすることの記憶」であり,「未来に関わる」「うっかり(すっかり)」忘れていた,で表現される「し忘れ」である.この「し忘れ」は,アクション・スリップ(し間違い,ERNがかかわるようなやつ)や,「ど忘れ」(既に獲得したはずの知識の想起の失敗)とは質的に異なる.展望記憶は,時間~月単位のスパンにおける意図の記憶であるともいえる.とりわけ,他者とのコミュニケーションにおいて重要な記憶であり,その点で回想記憶(retrospective memory)とは異なる.

(”コミュニケーション”が出てくると自閉症ではどうなんだ,と気になる病.確かに自閉症において,「あとで」○○をする,とかは苦手な気がするけど,一方で,何月何日何曜日にどこそこで会う,という予定は非常に厳格に守るイメージがありますね.ただ,後者は厳密には展望記憶とはいえないかもしれません.そもそも,対人面での弱さから,展望記憶が必要なような”約束”をする機会が少ないよね…,うーん,まとまらないので,この話はこのへんで.)

より厳密な定義をすれば,意図(計画)してからそれを実行に移すまでの間に,「ある程度の時間的幅(遅延期間)があり,その意図(計画)を連続的に意識するのではなく,あとでタイミング良く思い出す必要がある行為」をする際に必要な記憶,が展望記憶である.この展望記憶は,年をとっても衰えない(むしろ,高齢者のほうが若年者よりも成績が良い)ことから,「スキル化された記憶である」ということができる.スキルのひとつが外部記憶装置(記憶補助,メモとか,場所とか,手帳とか;いまだとblogとかtwitter,evernoteをはじめとした,webサービスもそうかな)の利用であり,これらの外部記憶装置の利用には,自らの記憶力の限界を知る,メタ記憶が関わる.

展望記憶を検証する心理実験はいくつかあるが,(本書にも記述があるが)どちらかというと,「し忘れ」を実験室内で再現する課題であって,「展望記憶を構成する下位要素」を検証するものではないような気がする.ともあれ.

展望的記憶といえばアインシュタインとマックダニエルによる「並列型課題」,ぐらい有名な課題,らしい.それでこの課題は,「イベントベース課題」と「タイムベース課題」に分類される.「イベントベース課題」は,背景課題(単語の記憶課題とか)実行中に,特定の文字が出現したら,特定のキーを押す,といったもので,「タイムベース課題」は,背景課題実行中に,特定の時間が経過したら,特定のキーを押す,というもの.タイムベース課題の成績は若者の方がよいが,イベントベース課題の成績は若者と高齢者で同等であり,しかもヒットレートは50%弱である,ということで,かなり難しい部類の課題になる.若者と高齢者の差がイベントベース課題において見られないことは,背景課題の認知的負荷を上げる(難しくする)と,高齢者の成績は有意に低下することから,単に課題が簡単すぎたということかもしれない.あるいは,処理の意識性(こっちは良くわからない,特定の文字が出現したら特定のキーを押す,ということは,「意識的処理」よりも「自動的処理」が関わり,この自動的処理は高齢者でも低下しないと書いてある)ことが原因であるかもしれないが,まだ明らかになってはいない.数多くの追試によれば,年齢によってパフォーマンスに差がないことは,それほど再現性はないとも.

バビラッシュビリ(1998)は物語置換課題によって展望記憶を調査した.その内容は,「総監(prefect)という言葉を,「探偵(detective)」に読み替えろ,というもので,以下の3条件があった.1.「これは記憶の実験である」と教示をしたもの.2.「文章理解を重視し,読み替えは追加的な課題でる」と教示をしたもの.3.「うっかり置き換え忘れていたので,これから読み替えをしてほしい」と教示をしたもの.読み替え忘れのエラー回数は,3>2>1であり,「読み替え」に対する意識の違いが結果として現れている.

バビラッシュビリの課題から,少なくとも,実験室状況においては,課題に意識をさせないことで「し忘れ」が生じやすくなることはわかるが,先に書いたとおり,本来知りたいことは,”し忘れはなぜ起こるか”,ということなので,このエラーの原因を探る必要がある.そのための課題が,筆者が考案した,ミニデー課題である.意図した行為を遅延して実行するためには,意図を記憶する能力(記憶を保持すること,意図再認能力),存在想起(何かをやらなければならなかったことを思い出す),内容想起(何をするかを思い出す)が必要である.ミニデー課題では,実験参加者(若年群,壮年(高年齢)群)は,あらかじめ一日の(架空の)予定を与えられ,1時間を6秒で経過させる時計を見ながら,予定が与えられた時間で時計をとめ(時計停止:存在想起),何をするかを口頭で述べる(内容想起).時計停止について,群間の差はなかったが,内容想起については,若年群の成績が壮年群よりも良かった.このことは,壮年群が社会的経験を通して時間ベースのスキルを熟達させていることを示唆する(実際の生活場面では,時間ベースの想起が可能であれば,手帳を見るなどして,内容想起の欠陥はフォローが可能である).

サマヴィル(1984)によれば,2-4歳の子どもは,子どもにとって興味があり,かつ想起までの遅延時間が短い場合に,展望記憶を活用でき,スシ(1985)によれば,展望記憶課題実施時に,子どもは実験室よりも家庭でよく時計を見ることが明らかにされ(この課題においては,記憶内容の子どもにとってのファミリアリティによる差は見られない?)るなど,子どもにおいても展望記憶が存在すること,および,適切な展望記憶の利用には,環境要因が重要であることが示唆されている.

筆者らは,ブザーが鳴ったら手をたたいて下さいと教示をし,20分後にブザーを鳴らし,実験参加者が手をたたかなかった場合,「何か忘れていませんか」「あることをお願いしたのですが」というプロンプトを提示されるブザー課題を健忘症,認知症の患者,および健常者に実施した.健常者はブザーが鳴ったときに全員手をたたくことができたが,健忘症の患者の半分が,ブザーが鳴った時点で手を叩く以外のなんらかの行動を起こした.認知症の患者は,半数以上が課題を与えられたこと自体を覚えていなかった(健忘症で,課題を与えられたことを覚えていなかったのは8名中1名のみ).したがって,認知症の場合は記銘-保持の段階になんらかの障害を持ち,健忘症の場合は,記銘-保持段階はおおむね問題がなく,存在想起までは可能であるが,内容想起に問題が見られることが示唆される.また,コルサコフ症候群においても,半数が存在想起はできるが内容想起ができないことが示された.さらに,側頭葉内側部の損傷患者(海馬,およびその周辺)においては,内容想起の低下を示すことが多いが,存在想起は一貫しないことが示された.

存在想起のみの障害(予定があることを思い出せなかったが,他者から指摘を受けると何が予定されていたかは思い出すことができる,という場合)に関する脳部位は前頭葉であることが示唆されている.コックバーンら(1995)によるfMRI研究,シャリスら(1991),パージェスらや奥田らの研究を参照のこと(リファレンスがほしいな)(そうそう,他の記憶障害に関する脳部位も紹介されています).今のところ,BA10野(前頭極)がとりわけ展望記憶にかかわることが示唆される.

また,タルヴィングは記憶の「検索モード」仮説を提案している.検索モードは,意識的なレベルではなく,潜在的なレベルでの緊張状態や認知的構えの反映であると考えられている(注意と大きな関係がありそう.たとえば,ある作業に集中しているとき(注意資源がある一点に過剰に配分されている),および,毎日通っている道を考え事をしながらぼんやり歩くとき(外的環境には注意資源がほとんど配分されず,歩行はほとんど自動化されている状態)には,展望記憶の想起が起こりにくいが,”適度な(便利な言葉)”覚醒水準にあるとき,たとえば毎日通っている道ではあるけど,注意資源がそこそこ外的環境に分配されているという状態では,ポストが目に入ってきて,その入力が「手紙を出す」という行為を想起させる,というような.このような注意の調整は,”今日何かすることがある”という意図による潜在的構え―検索モードであること―によるのかもしれない.注意と覚醒水準には密接に関係があるはずなので,”あることをしなければならない”という意図は,覚醒を高める作用を持っているかも?”あることをしなければならない”のに,覚醒が高まらない場合,意図の想起は失敗するとか.このこととパーソナリティの関係とか,このあたりは突き詰める価値がありそう…と思ったら,2章にほぼ同内容が記述されていた.2章を良くお読みください.).

最後に,リハビリテーションについて.筆者らは,「ミニデー課題」を,前頭葉損傷患者と側頭葉損傷患者に実施し,その結果,前頭葉損傷患者については内容想起の成績が,側頭葉損傷患者については存在想起の成績が(つまり,残存部位の活動に関係する成績が?)上昇した.また,日常生活場面での記憶パフォーマンスも向上するという汎化も見られた.ただ,これが損傷部位以外の脳の活動性そのものが増加した(バイパスが形成された)のか,記憶課題を定期的に行うことで,自らの障害や,その対象法を自覚した意識的な戦略変化によるものか,その両方かはわからない.ただ,損傷部位によってトレーニング内容を検討することは一定の価値がありそうである.

リハビリテーションというほどではないが,し忘れを防ぐ方法については,(ミニデー課題において,存在想起…時計停止成績は年代によらず優れていたことから),”将来的にやること”が決まった段階で,時刻を決定すること,および,外部記憶装置に頼ること(特に,適切な環境デザインをすること)があげられている.


とりあえず,アインシュタインとマックダニエルの課題は,展望記憶研究のさきがけという位置づけのようなので,ちゃんと読んでおきたいところかな.あとは,「存在想起」と「内容想起」は別のメカニズムが関係していそうなので,たとえば発達障害において展望記憶再生の失敗が見られる,というときにどちらが関連しているか,を調べることは重要だと思いますね(AD/HDは存在想起の障害でしょうかね).文中にも書いたけど,とりわけ注意機能との相関が気になるなあ,というところ.

そもそも展望記憶自体が比較的マイナーな分野である(と聞いていますが,実際は?まあ,確かに.あまり聞かない)ので,入門書としては貴重な書籍だと思います.とりわけ,展望記憶の行動/認知心理学的な基本的な実験を知るには,実例や問題点の検証などが大変わかりやすく,良書です.ただ,冒頭にも書きましたが,心理学実験の参考書として読むには,リファレンスがないことはちょっと残念(せめて,外国人はスペルを載せて欲しかった…「バビラッシュビリ」とかスペルがわからない).脳科学については,記憶障害と脳の関係は記述されているものの,生理学的な実験についてはほとんど記述がないことには注意(認知心理学的,ある脳損傷を持つ患者が,特定の認知処理に困難を持つ場合,その脳部位が特定の認知処理に深く関わるであろう,という推定を行う).しかし,梅田先生のやっている実験はどれも興味深く,読み物としても充分に耐えうる(ここでいう「読み物」というのは,専門外の人やちょっと心理学を齧りたい高校生なんかが読んでも,「おお,面白いな」と思うようなもの.「ゾウの時間 ネズミの時間」とかさ)ものでしょう,っていうか,本来の想定読者層はそっちなのかな,たぶん.というわけで,心理屋さん以外にもおすすめです.

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